💰 おかね

「1日でも足りなければ全額」の定めをどう読むか|勤めた期間のぶんを差し引いた額と並べる

この記事でわかること

  • 契約書どおりの額と、勤めた期間のぶんを差し引いた額には差が出る
  • 裁判では「勤続年数に応じた減額措置が無いこと」が材料に挙げられている
  • 「基本給の約10倍」は基準ではなく、その事件の事実にすぎない
  • 給料からの天引きと退職の引き止めは、16条とは別の条文の話

お礼奉公の契約書には、「定められた期間の勤務を終える前に退職した場合は、貸付金の全額を直ちに返還する」という形の定めが置かれていることがあります。

この定めをそのまま読むと、あと1か月で年限という人と、1日も勤めなかった人が同じ額になります。この記事では、その額をどう並べて見るかを扱います。

1. 並べるのは2つの金額

計算の仕方何を表しているか
① 契約書どおりの額まだ返していない元本の全額契約書の文言をそのまま適用したときの額
② 勤めた期間で差し引いた額未返還元本 × 残りの月数 ÷ 免除に必要な月数働いた分だけ免除が進んだと考えたときの額

← 表は横にスクロールできます →

②の定めが契約書に無くても計算する意味があります。過去の裁判では、全額返還の定めが争われて一部の支払いで解決した例があるためです。

この①と②の差が、契約書どおりに払う場合に上乗せになっている分です。話し合いでも裁判でも、争点になるのはここです。

2. 裁判所が材料に挙げたこと

医療法人K会事件(広島高判平成29年9月6日)で、裁判所は次の事情を挙げています。

  • 6年間に1日も満たない場合は全額返還を要し、勤続年数に応じた減額措置もないこと
  • 正看護師の資格取得後に約4年4か月勤務した事実が一切考慮されないこと
  • 貸付が学費そのものではなく生活費としての交付であり、在学中の給与の減少分を補填する目的であったこと(「本件貸付②の実質は、むしろ、賃金の補充として位置付けられるものであった」)
  • 退職届が提出されたあとに管理職が貸付の存在を指摘し、退職の翻意を促していたこと(「本件貸付は、実際にも、まさにY1の退職の翻意を促すために利用されている」)

「減額措置が無いこと」そのものが、材料の1つとして挙げられていることに注目してください。①と②を並べる意味はここにあります。

3. 天引きと引き止めは、別の条文の話

返還義務そのものが有効かどうか(労働基準法16条)とは別に、やり方の側に線を引いている条文があります。こちらは16条の結論を待たずに問題になります。

起きていること関係する条文
毎月の給料から返済分を天引きする労働基準法17条(前借金相殺の禁止)/ 24条1項(賃金全額払い)
辞めると伝えたら、返還を持ち出して引き止められた16条の判断で材料の1つとして挙げられた事情です
退職そのものを認めないと言われた民法627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

← 表は横にスクロールできます →

返還の話と、辞められるかどうかの話は別です。返還義務があることが、退職を認めない理由にはなりません。

4. 先に確かめる順番

  1. 貸主は誰か。 就職先の病院か、自治体か、学校か、JASSOか(ここで適用される制度が変わります)
  2. 契約書は労働契約とは別に交わしているか。 借用書があるか
  3. 免除に必要な期間は何年か。 3年を超えているか
  4. 減額の定めがあるか。 勤めた期間に応じて減るのか、全額か
  5. 利息の定めがあるか。 何%か、いつから付くのか
  6. すでに返した額はいくらか

まとめ

  1. 並べるのは2つ。 契約書どおりの額と、勤めた期間のぶんを差し引いた額です
  2. その差が、契約書どおりに払う場合の上乗せ分にあたります
  3. 裁判所は「勤続年数に応じた減額措置が無いこと」を材料に挙げています
  4. 「基本給の10倍」は基準ではありません。 その事件の数字は約9.9倍でした
  5. 天引きと引き止めは16条とは別の条文の話。 結論を待たずに確認できます

よくある質問

Q. 契約書に按分の定めがなくても、減額してもらえますか。
契約書に定めが無い場合、当然に減額されるわけではありません。ただし過去の裁判では、全額返還の定めが争われ、勤続年数に応じた減額措置が無いことが判断の材料として挙げられた例があります。個別の事案でどうなるかは弁護士にご相談ください。
Q. 返還額が基本給の10倍を超えていたら無効ですか。
そのような基準はありません。広島高裁の判決に返還額が基本給の約10倍にあたるという指摘はありますが、これは総合考慮の中で挙げられた事案の事実であって、判断の線として示されたものではありません。実際の事案の倍率は約9.9倍です。
Q. 退職を申し出たら「返せないなら辞められない」と言われました。
返還義務があることと、退職できるかどうかは別の問題です。期間の定めのない雇用契約については、民法627条により、労働者はいつでも解約の申入れをすることができ、申入れから2週間の経過によって契約が終了するとされています。就業規則の定めや有期契約の場合は扱いが異なるため、労働基準監督署の総合労働相談コーナーなどで確認してください。
Q. 分割で返すことはできますか。
契約書に一括返還と書かれていても、話し合いによって分割になることはあります。分割にする場合は返済回数と利息の有無で総支払額が変わるため、条件を書面で確認してください。当サイトの計算では、分割回数と年利を入れると毎月の返済額と利息の総額を出せます。
Q. すでに一部を返していますが、その分は計算に入りますか。
入ります。返還を求められる額は「貸してもらった総額 − すでに返した額」が出発点になります。当サイトの計算でも、すでに返した額を入力する欄を設けています。

この記事の出典

制度は改正されます。手続きをする前に、必ず上記の一次資料または所管の窓口で最新の内容をご確認ください。

あわせて読む

同じ運営者の無料ツール