同じ1万円でも、失うほうが重く感じる|損失回避が判断を曲げる4つの場面
この記事でわかること
- 得の喜びより損の痛みが重い、という非対称がある
- 確率の受け取り方は、得か損かで反転する(4分割パターン)
- 小さい確率は過大に、高い確率は過小に見積もられやすい
- 傾向を知っても消えない。判断のやり方のほうを変える
コインを投げて、表なら1万円を失い、裏なら1万1千円もらえる。この賭けに乗るかと聞かれると、多くの人が断ります。期待値は+5,000円なので、数字だけを見れば乗るべき賭けです。
断る理由は計算間違いではありません。1万円を失う痛みが、1万1千円もらう喜びより大きく感じられるからです。この非対称を損失回避と呼びます。
どのくらい重いのか
同じ賭けで、もらえる額を上げていくと、どこかで「乗る」に変わります。その切り替わり点が、その人にとって損が得の何倍重いかを表します。 実験では、この比がおおむね2倍前後になることが繰り返し報告されています。
確率の受け取り方は、得と損で反転する
損失回避だけでは説明がつかない現象があります。同じ人が、宝くじを買いながら保険にも入る。 片方はリスクを取りに行き、もう片方はリスクを避けている行動です。
プロスペクト理論は、これを確率の大きさと、得か損かの組み合わせで説明します。組み合わせは4通りあり、それぞれで向きが変わります。
| 高い確率(85%くらい) | 低い確率(1%くらい) | |
|---|---|---|
| 得るほう | 確実な少額を選びやすい(リスクを避ける) | 当たりを狙いやすい(リスクを取る) — 宝くじ |
| 失うほう | 賭けに出やすい(リスクを取る) — 損切りできない | 確実な小さい負担を選びやすい(リスクを避ける) — 保険 |
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表の右上と右下が、宝くじと保険が同居する理由です。 どちらも「小さい確率を実際より大きく見積もる」という同じ性質から出ていて、得の側では当たりを買い、損の側では備えを買う形に現れます。
判断が曲がりやすい4つの場面
- 損切りできない — 値下がりしたものを持ち続ける。確定していない損は損として感じにくく、売った瞬間に損が確定するのが重いためです
- すでに払った分が惜しい — つまらない映画を最後まで観る、続かない習いごとをやめられない。払い戻されないお金は、これからの判断には関係がありません(サンクコスト)
- 保険をかけすぎる — 起きる確率が非常に低いことに、額の大きい備えをする。備えること自体ではなく、確率に対して掛け金が見合っているかが論点です
- 解約しないサブスク — 「やめたら損」の感覚が、使っていない事実より強く効きます
知っても消えない。だから手順を変える
この種のバイアスは、知識として知っていても働きます。 消そうとするより、判断のやり方のほうを変えるほうが現実的です。効くのは次の3つです。
- 言い換えてみる。 「やめたら損をする」を「これから毎月いくら払うか」に置き換えます。同じ内容を得の側と損の側の両方から書くと、印象の差が見えます
- 先に基準を決めておく。 買う前に「いくらまで下がったら売る」を書いておくと、下がってから決めずに済みます
- 払ったお金を計算から外す。 これから先の得だけで比べます。取り戻せない額は、どちらを選んでも同じだけ失われています
まとめ
- 損は得より重く感じる。 実験ではおおむね2倍前後という報告が繰り返されています
- 確率の受け取り方は4通りに分かれる。 宝くじと保険が同居するのはこのためです
- サンクコストは、これからの判断に関係がない。 払った額は計算から外します
- 知っても消えない。 先に基準を書く、言い換えて確かめる、という手順で受け止めます
よくある質問
- Q. 損失回避とは何ですか。
- 同じ金額でも、得たときの喜びより失ったときの痛みのほうが大きく感じられる、判断上の非対称のことです。カーネマンとトベルスキーのプロスペクト理論で定式化されました。実験では損の重みが得の2倍前後になるという報告が繰り返されています。
- Q. 宝くじを買う人が保険にも入るのはなぜですか。
- どちらも「起きる確率の低いことを、実際より大きく見積もる」という同じ性質から出ています。得の側では当たりを狙う行動になり、損の側では備えを買う行動になるため、向きが逆に見えるだけです。
- Q. サンクコストとは何ですか。
- すでに支払って取り戻せない費用のことです。これから先の選択肢を比べるとき、この額はどちらを選んでも同じだけ失われているため、判断材料になりません。それでも惜しく感じて続けてしまう傾向が、損失回避の現れの一つです。
- Q. バイアスをなくすことはできますか。
- 知識として知っていても働くことが知られています。なくすより、判断の手順を変えるほうが現実的です。先に基準を決めておく、得の側と損の側の両方の言い方で確かめる、払った額を計算から外す、の3つが実行しやすい方法です。
- Q. この診断は心理テストですか。
- 行動経済学の実験で使われる形式を1問ずつに簡略化したもので、検証を経た心理尺度ではありません。出るのは傾向の目安です。診断名や能力の測定ではありません。
この記事の出典
- Kahneman & Tversky (1979) Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk, Econometrica
- Tversky & Kahneman (1992) Advances in Prospect Theory, Journal of Risk and Uncertainty
- 消費者庁「消費者行動と行動経済学」
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