夜勤の72時間ルールは個人の上限ではない|「夜勤時間」と労基法の「深夜時間帯」は範囲が違う
この記事でわかること
- 72時間ルールは労働基準法ではなく、入院基本料の施設基準
- 個人ではなく「同じ入院基本料を算定する病棟の平均」に対する基準
- 平均の分母から、夜勤専従者と月16時間以下の人が外れている
- 施設基準の「夜勤時間」は連続16時間。深夜割増の22時〜5時とは範囲が違う
「夜勤は月72時間まで」という言い方が広く使われています。しかしこの72時間は、労働基準法の規定ではありません。
ここを取り違えると、「自分は72時間を超えているから違法だ」あるいは「72時間以内だから問題ない」という、どちらも正しくない結論になります。
1. これは診療報酬の施設基準
72時間は、病院が入院基本料を算定するための条件の1つです。厚生労働省の「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(入院基本料の通則)に定められています。
| 72時間ルール | 深夜割増 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 診療報酬の施設基準(告示・通知) | 労働基準法37条4項 |
| 守る主体 | 病院(算定の条件) | 使用者(賃金の支払義務) |
| 対象 | 病棟の平均 | 働いた本人 |
| 超えたとき | 入院基本料の算定に関わる | 割増賃金の未払いになる |
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2. 個人ではなく「平均」に対する基準
定められているのは、次の式で出した数字を72時間以下にすることです。
日本看護協会の「2025年 病院看護実態調査」(2025年9月の一般病棟・回答2,104病院)では、一般病棟に勤務する看護職員のうち72時間を超える夜勤者の割合は33.9%でした。3人に1人が超えていても、病棟の平均は基準内でありうる、ということです。
3. 平均の分母から、2種類の人が外れている
この平均を計算するときの人数と時間には、次の人が含まれません。
- 夜勤専従者。 夜勤時間帯だけに従事する人。この人たちの夜勤時間は平均の計算に入りません(別に、月144時間以内という基準があります)
- 月の夜勤時間数が16時間以下の人。 分子からも分母からも外れます
4. 数える範囲そのものが違う
見落とされやすいのがここです。施設基準の「夜勤時間」と、深夜割増を計算する「深夜時間帯」は、時間の範囲が違います。
| 言葉 | 範囲 | 決める人 |
|---|---|---|
| 夜勤時間帯(施設基準) | 各保険医療機関が定める、22時から翌5時までを含む連続する16時間 | 病院(どの16時間にするかを決める) |
| 深夜時間帯(労働基準法) | 22時から5時までの7時間で固定 | 法律 |
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この2つを足したり比べたりしないでください。 深夜割増のために出した「22時〜5時の実労働時間」を72時間と並べると、実態より小さい数字で「まだ余裕がある」と読むことになります。
5. では、個人の側に線を引いているものは何か
労働基準法に「夜勤は月◯回まで」という規定はありません。個人に効いてくるのは次のものです。
- 労働時間そのものの規制。 週40時間・1日8時間(変形労働時間制を採る場合はその枠)と、36協定の限度時間
- 就業規則・労使協定で病院が定めた回数。 法律ではなく、その病院の決めごとです
- 満18歳未満の深夜業の禁止(労働基準法61条)。限られた例外を除き、22時〜5時に働かせることはできません
- 育児・介護中の深夜業の制限(育児・介護休業法19条・20条)。請求すれば原則として22時〜5時に働かせられません
まとめ
- 72時間ルールは労働基準法ではなく、入院基本料の施設基準。 守る主体は病院です
- 個人ではなく病棟の平均に対する基準。 実際に72時間を超える夜勤者は33.9%
- 平均の分母から夜勤専従者と月16時間以下の人が外れている。 だから夜勤をしない人が増えても平均は下がりません
- 施設基準の「夜勤時間」は連続16時間、深夜割増は22時〜5時の7時間。 混ぜて比べないこと
- 個人に線を引いているのは、労働時間の規制と、請求できる深夜業の制限です
よくある質問
- Q. 月の夜勤が72時間を超えていたら違法ですか。
- 72時間は入院基本料の施設基準で、病棟の月平均夜勤時間数に対する基準です。個人の上限を定めたものではないため、個人が超えていることをもって直ちに違法とはなりません。個人について問題になるのは、労働時間の規制(週40時間・1日8時間、変形労働時間制の枠、36協定の限度時間)や割増賃金が支払われているかどうかです。
- Q. 夜勤専従だと月何時間まで働けますか。
- 施設基準では、夜勤専従者の月あたりの夜勤時間数は72時間の概ね2倍以内、すなわち144時間以内とされています。あわせて、病棟の月平均夜勤時間数を計算する際の人数と時間からは夜勤専従者が除かれます。
- Q. 施設基準の「夜勤時間」と深夜割増の時間は同じですか。
- 違います。施設基準の夜勤時間帯は、各保険医療機関が定める22時から翌5時までを含む連続する16時間です。労働基準法の深夜時間帯は22時から5時までの7時間で固定されています。範囲が違うので、片方の数字をもう片方の基準に当てはめることはできません。
- Q. 72時間ルールを守っているか、看護師本人が確かめられますか。
- 月平均夜勤時間数は病棟単位で算出するものなので、個人の勤務表だけでは計算できません。病院は施設基準の届出をしているため、算定している入院基本料の種類は院内掲示などで確認できることがあります。
- Q. 子どもが小さいので夜勤を外してもらえますか。
- 小学校就学前の子を養育している労働者が請求した場合、事業主は原則として午後10時から午前5時までの間に労働させてはならないと育児・介護休業法19条が定めています。請求が起点になる制度です。同居の家族が保育できる場合など、請求できない条件も定められているため、勤め先の窓口で条件を確認してください。
この記事の出典
- 厚生労働省 診療報酬改定について(基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて)
- 日本看護協会 2025年 病院看護実態調査 結果(2026年3月31日公表)
- e-Gov法令検索 労働基準法(昭和22年法律第49号)
- e-Gov法令検索 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号)
制度は改正されます。手続きをする前に、必ず上記の一次資料または所管の窓口で最新の内容をご確認ください。